初回手術とフォローアップの重要性

残念なことですが、先天性手疾患の手術経験が少なく、また学術的基盤のない医師によって初回手術が行われ、術後に十分な経過観察(フォローアップ)もされないまま終診となり、その後変形が悪化したため来院される方がおられます。

 

初回手術では力学的均衡を再獲得する再建をおこなわなければなりません。

先天性手疾患を専門とする手外科医によって行われるべき手術であり、それを専門としていない形成外科医や整形外科医がする手術ではありません。

 

手外科医は自身が関与した症例の長期経過を知り、それを明日の手術にフィードバックしています。

データを集積・解析し、世界に公開することで医学の進歩に貢献します。フォローアップ期間には、定期的に理学的所見やX線による評価が行われます。問題が生じれば適切なタイミングで介入を提案されます。

 

初回手術とその後のフォローアップは極めて大切です。

これはその他の手足先天疾患についてもあてはまることです。

 

 

母指多指症の術後後遺症と修正手術

母指多指症の手術術後に後遺症が残ることがあります。後遺症には、傷あとやひきつり、爪の変形、可動域制限、骨格の変形が挙げられます。傷のひきつりを瘢痕拘縮といいます。関節の動きが悪いことを可動域制限といいます。骨や関節が曲がって真っすぐにならない状態を術後二次変形といいます。二次変形が成長とともに悪化する場合には修正手術を行います。傷あと、形のいびつさ、瘢痕拘縮についても修正手術の適応となります。

 

初回手術を他院でおこなった患者様についても修正手術をお受けしております。

 


もとの傷あとの位置、関節の不安定性、皮下組織の癒着、瘢痕拘縮などの理由で、理想的な修正結果が得られにくい場合があります。


指軸変形の矯正

母指が真っすぐにならない状態を二次変形といいます。母指の中心軸を指軸といい、指軸を真っすぐにするためには骨切りだけでなく、腱の正中化というプロセスが必要となります。

 

1歳時に他院で初回治療を受けられましたが、徐々に指が曲がってきたため受診されました。手術では指軸の矯正だけでなく、母指側面の傷あとや段差も修正し、自然な形態にしています。

1歳時に他院で橈側偏位型(「母指多指症の手術と術後経過」参照)に対して初回治療を受けられましたが、手術後半年後に橈屈変形が再発し、その後も改善が見られないため受診されました。橈側偏位型の術後変形の頻度は高く、骨切りのみでは矯正が得られません。手術では腱の正中化による指軸の矯正を行いました。

0歳時にⅡ型(「母指多指症の手術と術後経過」骨の高位Ⅱを参照)に対して他院で初回治療を受けられました。手術後に橈側に傾くようになり、成長とともに変形が悪化してきたため、小学校高学年時に紹介受診されました。このようなIP関節の橈側偏位変形では、腱の停止部や走行にずれがあり、変形を増悪させる方向に常に異常な力が働いています。そのため、骨切りのみでは変形が早期に再発します。手術では基節骨の矯正骨切りと腱の正中化による指軸の矯正を行いました。術後は長期に渡り真っすぐな指軸が保たれています。指の手のひら側に豆のような部分がありますが、このような部位の皮下には神経の断端があることが多く(断端神経腫)、押さえると少し痛みを感じることがあります。これについても処置を行っています。

 

このお子さまは基節骨の関節軟骨面が保たれていましたが、変形が脱臼に至り長期に経過すると、関節の軟骨が削れてくるため、治療がより困難となります。変形を認めた場合、早めに受診することをお勧めします。

 


二分併合法術後変形に対する修正術

二つの母指を合わせて一つにする二分併合法では①爪接合部の段差やくびれ、②指が全体的に太い、③指軸が曲がる、などの術後変形を生じることがあります。

 

二分併合法は低形成かつ関節が不安定な二つの母指から太く安定した母指を再建できる優れた術式です。しかしながら、手術内容が複雑であり、また術後変形に対する修正は初回手術より難しいため、経験の豊富な専門医によってのみ行われる手術であります。国内でもこの手術を行っている医師は数えるほどしかいません。

 

下の写真は修正手術のため紹介されましたこどもの術後経過です。爪と骨の再併合術を行い、くびれや段差のない爪と指幅の減量、指軸の矯正が得られています。変形の程度によっては1回の修正術では改善が得られにくい症例もあります。


不安定な関節に対する修正術

母指多指症の関節が真っすぐではなく、ある方向に傾くことを関節偏位といいます。

関節偏位が進行すると、関節を支える靭帯が緩くなります。これを関節不安定性といいます。

 

一旦不安定となった関節を安定した真っすぐな関節に戻すことはとても難しく、現在でも治療法は確立していません。

 

 関節が傾く理由の一つに力の不均衡があります。関節は靭帯のみで支えられているわけではなく、筋肉や腱によっても支えられています。その不均衡を同定し、改善する必要があります。

 

母指多指症の手術後のお子さまです。MP関節を横から押すと、直角になるまで倒れてしまいます。

 

両手の親指に輪ごむをかけて引っ張り合うと、母指は横方向のストレスに耐えられず、無意識のうちに屈曲させて耐えようとします(▽印)。

 

手術では、外転する筋と内転する筋が均衡に作用するような処理を行いました。術後のゴムの引っ張り合いでは、母指が屈曲せずに耐えているのがわかります。

 

 MP関節の橈側偏位には母指の根本の骨(第1中手骨)の内転変形(小指側に移動する)を伴います。中手骨が内転すると、母指と示指の間が狭くなります。その状態で把持を繰り返すと、関節偏位はさらに悪化していきます。このような状態が長く続くと内転拘縮という不可逆的な状態になり、治療はさらに難しくなります。関節が不安定な場合は、定期的な経過観察をお勧めします。